著者:マーティ・ケイガン
翻訳者:インターンスタッフ(アーテリジェンス)
マーケティングとプロダクトの乖離
もしあなたの企業が他の多くの企業と同じようならば、マーケティングとプロダクトの間にはある程度、自然な緊張感があります。フォーカスグループ、顧客調査、サイト分析、サイト視察、ユーザビリティテスト/フィールドテスト、競合分析などの市場調査ツールやテクニックが、プロダクト制作においてどのような役割を果たすかについてよく議論されます。残念ながら、これらは大きな混乱を招いている分野であり、これらのツールの利点を見ているマーケティング担当者と、ツールの限界を見ているプロダクト担当者など、様々な立場の違いよって引き起こされていると考えられます。
その結果、これらのツールや技術が提供できる情報を利用しないがために失敗する制作チームもあれば、ツールでは対応できない問題を解決できるテクニックに依存して道を踏み外すチームもあるのです。
これは大きなテーマですが、主要な市場調査ツールについて考察し、それらがどのように役立つか、どこで役立たないかを検討したいと思います。
市場調査の革新と限界
前置きが長くなりましたが、この10年間で市場調査のツールは劇的に進歩しました。簡潔に説明すると、幸いにも過去の懸念事項の多くは、新しい技術を用いて、多くのユーザーや顧客に簡単に接触し、どのような人がプロダクトを使って何をするか等、ユーザーの活動や行動を分析して解決してきています。
とはいえ、これらはまだ一部は非常に抜本的で、市場調査ツールとして本質的な限界があるので、その点も理解しておくことが重要です。
市場調査のツールや手法
まずは、主なツールや手法についてまとめてみましょう。
顧客調査
ウェブのおかげで顧客調査は非常に簡単で効果的になりました。コンジョイント分析(ユーザーの好みをランク付けする)などの手法と組み合わせると、非常に簡単で安価なため、どんなプロダクトでも必ず実施する必要があります。
ただし、注意すべき点が2つあります。
1つ目は、アンケートの質問を自分たちで考えることにテクニックが必要です。言うほど簡単ではありません。質問と内容を熟考しないと、社内の批判的な人たちがその結果を信用しません。なぜなら、もし質問が不明確だったり、偏っていた場合、彼らは「garbage in, garbage out」(ゴミからはゴミしか生まれない)と判断する可能性が非常に高いと主張するからです。
2つ目に、このデータは答えを出すための一つの情報であって、答えではないため社内で期待水準を想定しておく必要があります。すべてのユーザーが「Xが欲しい」と言って戻ってきても、代わりに「Y」を提供する方が、あなたの会社にとってより理にかなっている可能性は十分考えられます。
サイト分析
もしあなたのプロダクトがウェブサイトであれば、ユーザーがどのようにサイトを利用しているかを理解するための素晴らしいツールが存在します。サイトに適切に取り入れるために多少の作業が必要ですが、それだけの価値があります。早めにサイト分析を導入し、継続的に観察し、学び、調整していきましょう。
もしあなたのプロダクトがウェブサイトではない場合でも、プロダクトがどのように使用されたかという貴重な情報を記録し、あなたに送ってくれるため、あなたのプロダクトを取りいれることができます。
あなたがサイト分析に送っているのは集計データであり、個人を特定できるものではないことをお客様に明確に伝える必要があるかもしれませんが、データを取得する価値はあります。
データマイニング
先ほどお話したサイト分析のように、請求書やユーザーのアカウント情報、自社の商品データなど、さまざまな情報源からデータを収集するでしょう。今日では、そのデータを分析して収穫するためのツールがこれまで以上に充実しています。
自社サービスをいくつかの組み合わせて利用している人の性別の詳細を知りたいと思いませんか?あるいは、特定のユーザープロファイルの活動レベルの階層や分布を知りたいですか?
新しいタイプのデータ分析ツールを使えば、これらや他の何千もの問いに簡単かつ迅速に答えることができます。
フォーカスグループ
フォーカスグループについては、非常に複雑な気持ちです。私は基本的に、ユーザーの目の前に立たせてくれるものは何でも好きですし、フォーカスグループはそれをしてくれるので、うまく扱えばメリットがあります。
しかし、いくつかの大きな欠点もあります。
1つ目は、ユーザーが集まるとお互いに影響を与え合ってしまい、それぞれの純粋な意見が得られず、代わりに最も発言力のある参加者の影響を受けた偏った表現になってしまうような動きがあります。
2つ目に、これについては後ほど詳しく説明しますが、お客様が実際にプロダクトを使用しない限り、プロダクトに関する有用なデータを得ることは非常に困難であり、多くの場合、フォーカスグループはそれが可能な状態になる前に実施されます。
3つ目に、調査と同様、フォーカスグループの実施には技術が必要であり、効果的な実施方法を知っていて、かつ必要な深い会話を引き出すほどにプロダクト分野を理解している人を見つけるのは難しいことです。
サイト視察
ここでもフォーカスグループと同様に複雑な気持ちになります。ユーザーの自宅やオフィス、ショッピングモールなど、ユーザーがプロダクトを使用する場所の調査に代わるものはありません。
費用も時間もかかりますが、実際に訪問してみると、他の方法では知り得なかったことが見えてきます。最低限のサイト視察はプロダクトによって異なるため、行う必要があるかもしれませんが、コストと時間を考慮すると慎重に選ぶ必要があります。
ユーザープロファイリング
私はユーザープロファイリング、特にプロダクト定義やデザインが大好きです。市場調査員もプロファイリングを利用します。単一の「ユーザー」は存在せず、市場調査の仕事には、現在の顧客と獲得したい顧客など、世の中に存在する主要なタイプのユーザーを深く理解するのにプロファイリングは不可欠です。ユーザープロファイリングの重要性については、別のところで詳しく書いていますので、ここでは割愛させていただきます。
ユーザビリティ・テスト
このニュースレターの読者は、私がユーザビリティ・テストの大ファンであり、以前から頻繁に使用していたことをご存知でしょう。このツールは既存プロダクトにも使用でき、ユーザーがプロダクトについて実際にどのように考えているかをよりよく理解することができます。基本的には、プロダクト使用中のユーザーの目を観察することで、熱意や不満を測り、(言葉だけでなく)行動を見ることができます。これをリモートで行うツールや、実際のユーザーの行動を記録して分析するためのツールもありますが、これは無駄な装飾に過ぎません。
競合分析
このトピックは他でもよく取り上げられていますが、私はプロダクトチームがあまりにも頻繁に競合他社を無能だと見なしていることを強調したいと思います。しかし、私の経験では、どんなプロダクトにも少なくともいくつかの優れた点があり、それを見つけるのが競合分析の役目です。競合他社の成功と失敗から学ぶのです。
これらのツールやテクニックにより、次のようなプロダクトに関する重要な質問に答えるための、非常に現実的な助けを得ることができます。
- ユーザーのことを理解しているか。(ユーザープロファイリング、データ分析、アンケート、サイト訪問、ユーザビリティテスト)
- ユーザーはどのようにプロダクトを使用しているか。(サイト分析、データ分析、ユーザビリティテスト、サイト訪問)
- ユーザーはプロダクトの使い方を理解しているか。どこでつまずいているか。(ユーザビリティ・テスト、サイト分析、データ分析)
- ユーザーはプロダクトを使う理由。(アンケート、ユーザビリティテスト、フォーカスグループ、サイト視察)
- ユーザーはプロダクトの何を好んでいるか。(アンケート、ユーザビリティテスト、フォーカスグループ、サイト視察)
- ユーザーはプロダクトに何の機能を追加・変更してほしいと考えているか。(アンケート、フォーカスグループ、ユーザビリティテスト)
プロダクト制作のプロセス
これらの質問は非常に重要ですが、ほとんどのプロダクト担当者にとって基本的な質問である「何のプロダクトを作るべきか」には直接対応していないことに注意してください。これらの情報は確かにプロダクト制作プロセスのインプットとなりますが、市場調査でプロダクトの方向性を決めようとすると大変なことになります。
プロダクト制作プロセスとは、これらの問いに答えることなのです。
- プロダクト戦略とは何か。
- 何のためのプロダクトで、何をする必要があるのか。
- プロダクトはどのようにデザインするか。
では、どうしてお客様に「どんなプロダクトが欲しいか」を聞くことができないのでしょうか。これについては他で詳しく述べており、繰り返しになりますが、お客様が何を作るべきかを教えてくれないのには、3つの重要な理由があります。
1. お客様が自分の欲しいものを知らない - 実際に見てみないことには、欲しい解答を思い描くことは非常に困難である。
2. お客様は何が可能かを知らない - ほとんどのお客様は、関連する実現技術について知らない。
3. お客様はお互いを知らない - お客様は自分の生活や仕事で忙しく、他者と共通するニーズを分析する時間はあまりない。
市場調査のツールやテクニックは便利ですが、私は市場調査によって生み出されたヒット商品を知りません。Googleも、eBayも、iPodも、MySpaceも違います。よく売れたプロダクトは、ユーザーのニーズを深く理解した上で、同様に「今、何ができるか」を深く理解した上で生まれるのです。お客様の要望を聞くことができればいいのですが、そうすると、今既にあるのもか(せいぜい)、一時しのぎな機能の寄せ集めになってしまい、お客様が求めている新しくて劇的に優れた解決にはならないのです。
すでにプロダクトをリリースしていて、積極的な顧客がいる場合は、どの部分が気に入っていて、どの部分が気に入らないのかについて顧客と話し、漸進的な機能についての意見を聞くことで、多くのことを学ぶことができます。重要なのは、それぞれの限界を理解することと、これはすべて、新しいプロダクトを考案するのではなく、既存のプロダクトを改良するためのデータであるということです。
したがって、市場調査ツールを用いて自社プロダクトを改良し、可能な限り良いものに役立ててください。ただし、その手法から次のMySpaceやFlickr、YouTubeのアイデアが生まれることは期待しないでください。
注記:この記事は、SVPG社 (Silicon Valley Product Group、https://svpg.com/) の制作記 事を、同社の許可を得て、アーテリジェンスのスタッフが無償で翻訳しています。本翻訳 記事の無断での複製・転載を禁じます。