作者:マーティ・ケーガン
翻訳者:インターンスタッフ(アーテリジェンス)
「豚に口紅」とは
例え話ですが、「一匹の豚」を粗悪なプロダクトに例えるとします。そうすると、「豚に口紅を塗る」(Lipstick on a pig:お化粧しても[うわべを飾っても]事の本質は変わらない、という英語の慣用句)ことは、プロダクトそのものが最悪の状況という前提では、最善を尽くしたマーケティングを行っている状況といえます。「豚に口紅」という比喩は少し残酷かもしれませんが、そのメッセージは(マーケティングにより表面を取り繕うという意味において)明解です。
「豚」を人に買って使ってもらうように頑張って説得するプロダクトマネージャーの仕事は、とても難しいものになるでしょう。私はこの難しい仕事を楽しむ人たちがいることを知っています。彼らは既に良いプロダクトのプロダクトマーケティングを、難易度の高い仕事とまで思っていません。とはいえ、私は個人的には、まず最初に良いプロダクトを作ることからスタートすべきだと考えます。
素晴らしい企業が生み出してしまった「豚(表面的な取り組み)」
セス・ゴードン著作の『Purple Cow』(邦訳は無し)は、マーケティングの立場から類似の主張をしています。(そのうえ、同じく家畜をテーマに使っています。)
先進技術の世界では、あまりのも多くの「豚に口紅」の例が存在します。皆さんも見たことがるのではないでしょうか。ですが、私は自分の主張を説明するために、私が実に称賛している企業、マクロメディア社のプロダクトを選ぼうと思います。マクロメディア社は、世の中の最良のプロダクトマネージャーとプロダクトリーダーのうちの数人と、私がとても先進的で効率的であると考えているプロダクトの開発プロセスを持った、素晴らしい企業です。Adobe社は、マクロメディア社(買収決定時)がいくつかの素晴らしいプロダクトに加え、数人の傑出した人材、そして革新的な開発プロセスを獲得していることを知った時には、驚喜に見舞われたことでしょう。しかし残念ながら、時として素晴らしい企業にも粗悪なプロダクトは存在するのです。
(訳者補足:マクロメディア社は2005年にAdobe社に買収されています。)
マクロメディア社の「豚」
このお話は、「豚」ではなく、マクロメディア社の「Flash」を皮切りに始まります。インターネットとブラウザの登場以来、一度書いたら、そのプログラムがどこでも動くようにするという目的で、異なるブラウザやOS、コンピュータでも動く、より上質でインタラクティブなUXが明確に求められました。これはもちろん、Javaの大きなゴールでもありましたが、いくつかの理由により、これがJavaにおいて達成されることはありませんでした。しかしながら、Flashはこれを達成したのです。事実上すべてのブラウザは、Flashのプラグインがインストールされており、人々はおそらく毎日のようにFlashでwebサイトを使っていましたが、人々はそのことに気づいていませんでした。それはFlashの動作が速く、滑らかで、ほかのwebページと上手く統合されていたからです。もしあなたがHTMLを超える上質なUXを求めるのであれば、おそらくFlashを使っていることでしょう。
しかしながら、Flashはエンドユーザーに対しては素晴らしい仕事をしている一方で、開発者にとっては、Flashのコンポーネントを作るのがとても面倒になり得ます。特に、Flashを多用したい場合や、管理するデータが多い場合はそうなります。マクロメディア社は、このことを顧客から聞き、そこにプロダクトを改善するチャンスがあると気づきました。その答えが、Flexと呼ばれる製品でした。
最初は、Flexというプロダクトはとても広い用途で売り出されました。営業チームは、Flexを上質でインタラクティブなwebサイトを作るための次世代の手段として、積極的に売りに出しました。しかしながら、不幸なことに、営業チームは問題を抱えていました。それはFlexという製品が「豚」だったという点です。Flexはとても動作が遅く、デザインには柔軟性がなく、そしてエンドユーザーのUXは最悪でした。多くの開発者たちは、その開発者用モデルを気に入り、アプリケーション開発のしやすさを評価しましたが、エンドユーザーはその犠牲になってしまったのです。
その問題の症状の一つ目は、Flexがターゲットとする企業のタイプと、実際に取引が成立した顧客とのミスマッチでした。既にデプロイメントの技術を上手く使っている少なくとも2、3の企業に対してその技術の提供を可能にすることなく、新しいデプロイメントの技術を保証する消費者向けのインターネットサービスを手に入れるのは難しいことです。もちろん、以前私たちが論じたように、プロダクトのローンチの時点で、自社のプロダクトがしっかり動いていて、取引がある大手の企業がいくつかあることを確実にさせるのがプロダクトチームの仕事なのです。
問題の症状の二つ目は、マクロメディア社のプロダクトのサイトはとても身構えており、プロダクトのパフォーマンスについての苦情を明確に聞いていたことです。彼らは、Flexのサイトに「Flexのアプリのパフォーマンス向上のためのヒントと方法」や「マクロメディアのFlexはあなたに合っていますか?」などのカテゴリーを追加していました。
(訳者補足:問題を聞いているのにも関わらず、対処しなかったことを問題にしていると考えられます。)
症状の三つ目は、マクロメディア社は開発者の利益には焦点を当てていましたが、エンドユーザーの利益にはほとんど注目していなかったということです。開発者のコミュニティとお話をするのは素晴らしいことですが、一番重要な人たちであるエンドユーザーをないがしろにしてはいけません。
Flexのマーケティング要員たちは、ポジショニングの調整や、反対意見への対処のためにできることをしましたが、そもそも、彼らの仕事が険しいものであったのは、プロダクトが先述した問題点を含め、顧客が満足する基準に達するものではなかったからでした。
Flexのプロダクトチームに対して公平な立場で言うのであれば、このプロダクトは実際に売りに出されたマーケットに向いているものではなかったという可能性もあります。マーケティングチームと営業チームは、時に自分たちが持つものすべてを自分たちが一番知っている顧客に持っていきます。しかし、このケースから得られる教訓は、違うプロダクトの担当だったらなと希望的観測を述べることとは何の意味もないということです。プロダクトは自分のプロダクトマネージャーとしての威信を賭けて納品しないといけないのです。
まとめ
ここまでFlexの問題点について論じてきましたが、マクロメディア社は賢い人材を持った素晴らしい企業であり、私は彼らがプロダクトをより良いものにしていくだろうということに対してほとんど疑いを持っていません。FlashやDreamweaverなどのマクロメディア社の傑出したプロダクトからだけでなく、たまの失敗(=弘法にも筆の誤り)からも、私たちは学びを得ることができるのです。
注記:この記事は、SVPG社 (Silicon Valley Product Group、https://svpg.com/) の制作記事を、同社の許可を得て、アーテリジェンスのスタッフが無償で翻訳しています。本翻訳 記事の無断での複製・転載を禁じます。