前書き

DXとは

 昨今、デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の推進に、さまざまな企業が力を注ぎ始めています。日本におけるその発端は、2019年、経済産業省が「デジタル経営改革のための評価指標(DX推進指標)」を発表したことに起因します。[1]


 一方で海外においては、それよりも10年以上前の2007年頃から、本格的なデジタル時代に備えた改革が取り組まれてきました。この動きはデジタルネイティブと呼ばれる新興勢力はもちろん、伝統的企業も対抗すべく実行しています。例えば、小売業最大手のWalmartは同年、eコマースを本格展開し始めています。(詳しくはこちらの記事をご参照ください。)


 諸外国に遅れをとる日本では、DXは単なる最新技術の導入を言い換えた言葉であると未だ誤解されることもあります。しかし本来は、技術導入によって価値提供の仕組み・ビジネス構造を変化させ、競争優位を得るという一連のストーリーのことを指します。[2]


 今回は、実際の事例を通して、DXの根源である「デジタルを駆使した価値提供プロセスの変革」を理解していこうと思います。特に、「農業」に焦点を当てて、そのDX事例としてJohn Deereの施策をいくつか紹介していきます。


 世界の人口77億人のすべての人々に影響を与えている農業は、他に類を見ない産業です。また、いつの時代も作物・食料生産への需要は下がることはありません。そんな農業の現場を支えてきたのが、過去183年にわたって農業機械の発展に貢献してきたメーカー、John Deere(以下ディア社)です。ディア社はトラクターやコンバインに加えて、ドローンや自律走行型機械など、農業の未来を形作る革新的な技術を模索している、業界をリードする伝統的企業です。


 デジタルネイティブである新興企業ではなく、ディア社のように伝統的な大企業の事例を参考にすることで、DX推進を図る日本企業が、より身近に学びを得ることができるのではと思います。

農業の変遷・DX

まずは農業がどのような変遷を辿ったかについて概観します。

農業の変遷1:機械大型化

 かつては手作業を主としていた農業は、機械の導入、そしてその大型化の恩恵を受けることになります。


 手作業の農作業では、100ブッシェル(穀物の計量単位)の小麦生産には250~300時間の労働が必要でした。蒸気で動く農機具の発明、商業用肥料の開発を受け、20世紀に入る頃には、その時間は40~50時間までに短縮します。ガソリンなどの内燃機関や除草剤などの化学薬品、自走式機械の発展により、1900年代半ばにはその時間は約6時間に、さらに遺伝子学が起こした「緑の革命」による品種改良や合成化学物質の投入、ゆくゆくの遺伝子組み換え作物の普及を通して、1900年代末には約3時間となります。


 このように機械や投入物の発展によって、農業は大きく効率化しました。以前の農業技術の向上は、より多くの土地をカバーすることがより高い生産性につながるという伝統的な考えのもと機械の大型化・安全性の向上などが中心でしたが、細やかな作業ニーズには答えるものではありませんでした。


農業の変遷2:機械精密化

 上述の課題とコンピュータ性能の飛躍的な向上を背景に、21世紀以降、圃場内の状態を測定し、それに対応して作物をより効果的に管理する「精密農業」が主流になります。


 GPSの活用やセンサーの導入といった進化を経て、農機具から、マシンの動作に関するデータ(位置情報、燃料レベル、エンジンの回転数など)や作物の管理に関するデータ(土壌、収穫量、散布データなど)などの様々なデータの獲得や、そのデータを集約して分析することができるようになります。

 さらにテレマティクスと呼ばれるリアルタイムの無線データ接続が普及し、機械のデータはクラウドや他の機械とリアルタイムで送受信されるようになります。機械の遠隔監視やパートナーとのデータ共有、複数機械間の調整などが可能になり、生産性は飛躍的に向上しました。


 マッキンゼーが世界経済フォーラムのために行った調査によると、精密農業の手法が普及すれば、2030年までに1,000億ドルの農業コストの削減と1,800億立方メートルの水の節約が可能になるといいます。また、データ解析やAIを活用することで、2030年までに農家の収入をさらに700億ドル増加させることができるとしています。[3]

近年の課題:気候変動・持続可能性

 機械精密化が進む現在、より未来を見据えた課題解決が求められています。


 たとえば天候は、農家にとって最も重要で、かつ最も信頼性の低いビジネスパートナーと言われています。生計を立てるためには、予期せぬ事態に備えてあらゆることを計画する必要があるため、農家は気候変動への柔軟な対処が求められます。


 また、今後30年以内に世界の人口は100億人に達し、世界人口の増加・所得の増加・食生活の変化なども相まって、2050年までに農作物の需要が60~70%増加する、などと予想されています。先進国では高齢化、家族経営依存による担い手不足、などの労働力減少も顕著です。


 さらに、農地の再利用には限界があることや都市化・砂漠化によって、農地が減少することも問題視されています。同じ土地で作物を育てると年々土地はやせていきますし、農薬、除草剤や殺虫剤などの使用もその枯渇に拍車を掛けます。そのため、今や化学物質の仕様を最小限に抑え浸食を減らすことも求められ、持続可能な農法についての認識と規制も高まっています。


 このように、今まで以上にテクノロジーとの融合による生産性の向上、規模の効率化、コスト削減の仕組みが重要になり、持続可能な農法の両立した上で、収穫量・収益の最大化が、常に競争にさらされている農家に求められています。

John Deere (Deere & Co) のDX

John Deereとは:創業・企業の立ち位置

 ディア社は世界最大の農機具メーカーです。事実、「ビジネスリーダーが最も賞賛し、注視している企業」を表す、フォーチュン誌の"世界で最も賞賛される企業(World’s Most Admired Companies)”の業界1位にランクインしています。


 ディア社の創業は、1837年、John Deereという鍛冶屋がイリノイ州グランデトゥールに移住したことから始まりました。彼によって設立されたディア社は長年にわたり農業機械のグローバルリーダーとして活躍し、現在ではイリノイ州モリンに本社を置き、全世界で69,600人の従業員を擁すまでに成長しています。また、2020年の売上高は355億ドル(日本円換算で約4兆円)に達しており、現在も増加傾向にあります。

掲げているビジョン

 ジョンディアは、2013年に「Farm Forward」というビジョンを発表し、10年間取り組んできました。具体的には、中央のコントロールハブから機械を遠隔で管理する「自律型農場」を差しており、農家が自宅のコンソールからリアルタイムでデータポイントを監視し、機械を管理し、その間にAIが刻々と操作上の決定を行うというものでした。


 2019年には更にAIの役割を強化したビジョン2.0を発表しました。これは、人工知能のアルゴリズムによって最適化された作業を継続的に行いながら、ロボットのトラクターが自ら圃場を走り回ることで、完全に遠隔管理された農場を実現するというものです。自律型農場では、、5G、ビッグデータ処理、地理空間モデリング、ドローンによる空撮、ロボット工学、コンピュータビジョン、AI/MLなどの機能を活用して実験を行うことができ、生産性を継続的に向上させることができます。


 2020年には、ビジョンを更に刷新し、農業の生産システムを革新し、すべての人にとって持続可能な方法で、ライフサイクルを通じて顧客の経済的価値を引き出すという形へ進化させました。ここで具体策として「スマートインダストリアル戦略」を掲げており、植物それぞれに個別のケア(正確な量の水、養分、農薬)を大規模に提供し、より大きな収量と廃棄物の削減につなげるために必要なシステム全体(機器、データ、分析、自動化)を提供することを目標としています。


創業からDX前夜まで

 ディア社の創業は、1937年、鉄製のすきを初めて設計したことに由来し、1968年、Deere &Companyとして法人化しました。以降、1918年にガソリンを動力とするトラクターを発表、1970年代にトラクター機能を電子制御化するなど、農業機械の進化を牽引し、機械の大型化を実現します。


 1990年代には今ではなじみの深いGPS(全地球測位システム)が普及し、技術開発が盛んに行われるようになるなど、農業の進歩は精密化へと転換しました。ディア社は1999年に精度・コスト効率の良いGPSネットワークを開発したり、2001年に音声や視覚的な合図でトラクターの進路制御が出来る「パラレル・トラッキング機能」を発表したり、コンピュータやセンサーを活用した技術を促進します。

AutoTrac

 2002年、GPS技術を応用した一例として、トラクターの自動誘導システム「AutoTrac」を導入しました。これはGPS座標を利用して機器を制御し、従来の直進に加えて、ステアリング(いわば方向転換)自動化を可能にする技術です。

 この自動操縦は、労働時間、農家の疲労、燃料、除草剤や肥料、二酸化炭素排出量などのあらゆるコストを削減できるだけでなく、オペレーターの経験差・熟練までの敷居の解消に大きく貢献しました。

Farm Forward1.0:IoT・クラウドによるデータ管理

 農家は収穫量を最大化するために、天候、土壌の質、水分や栄養分のレベル、種子の配置、肥料や農薬の散布頻度・量など、無数のデータを考慮しなければいけません。

 ディア社は、機械に搭載されたセンサーで(農場・機械の)データを自動収集、クラウドへの自動アップロード、そしてプラットフォーム上で管理・分析するというクラウドサービスを開始し、解決策を見いだしました。このデータの一元管理を可能にする一連のシステム「JD Link」は、農業に関する多くのデータへの最適化を担う、ディア社が行ったDXの最たる施策例です。

JD LinkとMyJohnDeere.com

 初期の「JD Link」は、機械上のセンサーで、機械および農場のデータを自動収集するものでした。2011年以降、ディア社の新製品にはこのセンサー群を標準搭載されています。2013年には、「JDLinkTM Connect」というデータ転送サービスを発表し、センサーから収集されたデータのクラウドへのアップロードも自動化されました。

 機械以外の農場全体、つまり圃場や気象条件に関するデータは2014年に発表された環境センサーシステム「Field Connect」を通してリアルタイムに収集・クラウドへアップロードされます。

 同年2014年には「MyJohnDeere.com」を開始し、収集された機械・農作物データ、そして保証や請求情報などを集約するクラウドプラットフォームができあがり、翌年2015年にはソフトウェア会社DN2Kのプラットフォーム「MyAg Central」を MyJohnDeere.com に統合したことで、作業の自動作成・指示が可能になりました。 


 以上のデータ周りの変革によって、今や農家はこの MyJohnDeere.com にアクセスするだけで、機器の動作をリアルタイムに監視し、パフォーマンスを分析し、機器の最適な利用を判断し、外部パートナーと共有・協力し、最適な条件で農業計画を決定するためのアルゴリズムを考慮した意思決定を下す、といった業務ができるようになりました。

 現在、ディア社が機械に展開している膨大なIoTは、世界中の13万台以上の接続デバイスから毎秒500~1500万件の測定値を収集しています。これにより、ディア社は世界レベルで「クラウドコンピューティングサービスの最大級のユーザー」となっています。このデータ収集には、トラクターのメンテナンス情報、局地的な気象情報、ドローンシステムからの空撮画像、土壌分析など、さまざまなソースが含まれており、多角的なデータを農業の自動化に活用しています。

Farm Forward2.0:電動化・自律化・人工知能の活用

動力の電動化

 ディア社は油圧機器を電気モーターに置き換えて制御精度を高めるといった、電気を動力源とする未来をも見据えています。電動化は、より強い牽引力や低い土壌負荷による生産性や、排出ガスが出ないこと、エンジンオイルやギアオイルが不要であることなどの環境配慮、などの側面で、利点があるためです。

eAutoPower Transmission

 一例として、ディア社は「eAutoPower」というトランスミッションの電力化コンセプトを、2019年発表しました。

 このeAutoPowerにより、余剰電力の外部利用で動力に対する効率が改善されるだけでなく、ギアボックスの効率向上やメンテナンスコストの削減などにより、生産性が最大45%向上し、農家の収益化改善や持続可能な農業に大きく貢献します。

 この技術が2019年のAgritechnicaでゴールドイノベーションアワードを受賞したころからも、電動化への大きな期待値が見てとれるでしょう。

機械の自律・自動化

 大型化した機械を操縦するという労力、そしてその学習コストを抑えるためにも、機械の自動化は自律型農場を実現するために、ディア社が最も力を入れている技術のひとつです。

自律型ドローン噴霧器

 2019年に発表された自律型ドローン噴霧器は、農家の操作を必要としない自動化・自律化した技術の最たる例です。

 この自律型のドローンは、1つのホームから半径30マイルまでの広範囲を選択的スキャンし、除草剤や殺虫剤などの最適な散布場所を決めることができます。このように農家は計画・実行における手間が実質的になくすことができるなど、全自動化に向け未来の農業を担うひとつの可能性を示しています。


人工知能の導入

 さらにディア社は、自動化にとどまらず、人工知能の活用によって「機械が人間のように行動する能力を持つ」というコンセプトの実現を目指しています。

Combine Advusor

 「Combine Advisor」システムは、X9コンバイン(穀物を収穫する機械)のエレベーターに搭載されたカメラで収穫中の穀物のビデオ画像を監視し、穀物の品質を分析して、リアルタイムで運転パラメータを最適化するもので2017年に発表されました。これにより、収穫量の向上、正確なカットパターンによる収穫物の品質向上、茎や葉、穂などを分離して肥料として利用することによる廃棄物の削減など、持続可能な農業を実現する目的を同時に達成しています。

小規模で機敏なスタートアップ企業との関係

 Blue River Technology社(以下ブルーリバー社)は、2017年にディア社が買収したシリコンバレーを拠点とする機械学習のスタートアップで、特にコンピュータビジョンの専門知識はディア社の進める人工知能導入の基盤を担っています。

 コンピュータビジョンとは、コンピュータに「見る」ことを教える科学で、特に農業との親和性が高い最新技術です。なぜなら、農家は農場の主要な "センサー"であり、農業の多くは視覚的なものだからです。地面、植物がどのように見えるかで健康状態を知ることができたり、葉の色、虫がいないかを把握したりすることは農業の意思決定に直結します。


 ディア社は買収にあたり、企業を取り込むのではなく、価値を最大化するためにスタートアップの文化を維持することを重視しました。これにより、ベンチャーのIPと人材を既存の製品開発パイプラインに統合することができたと言います。

See and Spray

 ブルーリバー社と共に発表した「See and Spray」システムと呼ばれる、雑草を識別し、不要な植物にのみ除草剤をピンポイント散布する技術は、人工知能の強みを活用した好例です。これは2019年に初めてコンセプトが発表され、実用化が待たれる技術です。

 これにより除草剤の使用量を80〜90%削減できるため、農家のコストの大幅な節約、害虫が化学薬品に対する耐性を身につける速度の抑制、作物の生産性向上による持続可能性の向上が期待できます。


農作業の姿の比較

 さて、こうしたディア社のテクノロジーを導入したことにより、農作業がどう変化したのでしょうか。農業の年間サイクルは「管理」「準備」「植え付け」「保護」「収穫」の5段階に分類されます。各段階における変化を概観してみましょう。

管理

 まず、農家は前年の収穫と農場・設備の状態を評価します。その結果、作物の植え方、新しい設備の導入など、次の年の計画が立てるのです。種の選択においても、種苗会社主催のイベントに足を運んで品評したり、大学の研究結果を参考にしたり、他の農場・作物コンサルタントから情報を学んだりも行います。その後予算を作成し、購入に移ります。従来は以上の流れを汲んでいました。

 現在はMyJohnDeere.comプラットフォームを活用し、アプリケーションを実行することで大半が完結します。機械の状態や農作物データの把握、そこからの意思決定はすべてアルゴリズムに任せることが出来ます。また、アクセス権をディーラー、コンサルタントなど許可することで、機械のメンテナンス・品種の選択などもシームレスに委託できますし、ほとんどの情報はオンラインで公開され、その場で確認できるようになりました。

準備

 次に最適な条件の土壌を確保します。従来はトラクターで噴霧器・散布機を引っ張って土壌のpH調整剤・肥料をまいたり、耕耘機を操作して土地を耕したり、雑草を除いたりを行っていました。

 今やセンサーで土壌を把握し、自動的に設定を司ります。トラクターや耕耘機の操作も自動化が進み、オペレーターが求められるのは操縦では無く、画面上で提案される操作の選択のみです。労力が削減されるだけで無く、燃料や散布剤などの削減・持続的な土壌の生成をアプリと機械が担います。

植え付け

 プランターによって畝(うね:細く直線上に土を盛り上げた所)に直接種子を植え付けます。生産性を考慮して、間隔、深さなど高い精度が求められ、時には手で掘り起こして確認することもありました。

 ディア社のExtraMeargeプランター技術はこのフェーズを正確に、かつ高速に作業します。他のAutoTrac技術などの併用により、さらに動作を最適化し、燃料などのコストも削減されます。

保護

 成長まで作物を守る段階では、最適な条件を常に維持し収穫量の最大化が求められます。農家は天候や土壌の状態を正確に把握し、水やりや肥料蒔きを適切に行います。また、雑草や害虫・病気への対策として、農薬にも気に掛ける必要があります。少なすぎると耐性を獲得させてしまったり収穫量が減少したりしますし、多すぎると作物に害を与えたり、土壌や水路への汚染に繋がる可能性があるためです。特に従来は広い農場の区画を正確に把握するのは難しく、平均的な指標で散布量の決定を行っていました。

 現在は、条件は機械や農場に設置されたセンサーが自動的に把握し、農家は手元のデバイスで瞬時に把握することが出来るようになりました。機械を走らせることで自動で過不足ない作業を実行でき、その実行命令もワイヤレスで送り出すことができます。加えて、この作業は区画よりもさらに細やかな範囲、つまり植物ごと個別に最適化されるまでになっています。

収穫

 最後の段階では、最も適切な時期かつ次の季節が訪れるまでの限られた時間内で、広い農場を数台の自走式コンバインの同時稼働により収穫を行います。その同時稼働や物流は非常に困難で、また、品質の確認や市場価格を考慮した出荷も、多くを考慮しなくてはならない大変なものでした。異物の混入や収穫漏れなども工程や収穫量に大きく影響します。

 ディア社の技術により、これも自動化されつつあります。作物をカメラで認識して損失を最小化した収穫でき、そのコンバインの複数連携も運転席やオフィスのディスプレイで監視できます。物流も穀物カートの操作を遠隔・自動的に担います。

 以上のように、現在のアメリカの農場はディア社の掲げていた自律型農場を体現しています。農業は重労働を強いるものというステレオタイプな姿は既に過去のものとなっているのです。


 そして現在、ディア社は既に次のビジョン(植物それぞれを個別にケアし、より大きな収量と廃棄物の削減につなげるために必要なシステム全体を提供するもの)への取組みを進めています。


学び

John Deereの姿勢と客観的評価

 以上の事例に共通しているのは、農家および持続可能性の課題解決を実現し、掲げるビジョン「自律型農場」にコミットしていることです。

大きなビジョンを持ち、構想力をもって課題解決に取り組み、その手段としてテクノロジーを最大限活用していること、そして複数の施策を一貫した形で提供し、ビジョンを形だけのスローガンに終始させないことが読み取れたかと思います。このように単発の技術導入、いわばテクノロジーのためのテクノロジーに陥らず、価値提供プロセスの変革としてデジタルを駆使することこそDXの根幹であり、日本企業に求められている認識だと考えられます。


 ディア社は180年以上の歴史をもつ老舗でありながら、求められている課題と自らの役割を正しく把握し、新たな農業の創造を牽引する姿勢を貫いています。この結果は営業利益にも如実に反映されており、2021年度上期も力強い成長を遂げています。



 また、ディア社のこうした姿勢・取組みは客観的に高い評価を得ており、その期待が近年の株価の上昇としても表れています。

後書き

DX導入の考え方の入り口

 近年DXを駆使したテクノロジー駆動型企業は大きく存在感を発揮し、「ディスラプター(破壊者)」と称されることも散見されます。この表現や伝統的企業のDX事例に対する評価には、「スタートアップの事例は、前提や制約が異なり過ぎて参考にならない」という主張が内包しているように思います。『DX経営図鑑』著者の金澤一央は、「このような思考停止は、企業の変革を阻む偏見と慢心に繋がっている」と言います。


 ブルーリバー社の買収は、両社の文化がいかにうまく融合しお互いに学び合っているという面で、従来の帝国主義的な発想を否定し、多様なビジネスとの共存におる民主主義的な成長を目指す好例です。事実、ブルーリバー社の90名のスタッフのうち、買収後に辞めたのは1名しかいませんでした。

 ディア社のように、過去に大きな成功体験を持つ企業ほど、新しいものを「取り込む」という発想を持ってしまい、「自己流にカスタマイズ」しようとしますが、企業変革に必要な姿勢にも改めて変化が求められていることは、これらいくつかの事例が示すとおりです。

(この姿勢は、小売業最大手のWalmartの事例とも共通しています。詳しくはこちらの記事をご参照ください。)

 経営の観点からも、より広い視野のなかで、DXに巨大な投資を続けていくことが必要です。それは決して単発の技術導入では無く、ビジョンを実現する一連のストーリーであることは十分ご理解いただけたかと思います。この3年間でディア社は、IT組織をよりアジャイルでプロジェクトベースの組織に変革することに成功しました。また、アジャイルへの投資を増幅させるために、包括的なトレーニングプログラムを作成しました。


 アーテリジェンスでは同様に、これらDX施策に関する具体的なコンサルティング業務や、DX組織設計支援、研修業務を行っています。具体的な内容に関心のある方はぜひお問い合わせください。

参考

本文

  1. HBSケース
  2. 金澤一央・DX Navigator 編集部『DX経営図鑑』(アルク、2021年)
  3. https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html
  4. http://www3.weforum.org/docs/WEF_Innovation_with_a_Purpose_VF-reduced.pdf
  5. https://www.ers.usda.gov/publications/pub-details/?pubid=100011
  6. https://fortune.com/company/deere/
  7. https://en.wikipedia.org/wiki/John_Deere
  8. https://bernardmarr.com/the-amazing-ways-john-deere-uses-ai-and-machine-vision-to-help-feed-10-billion-people/
  9. https://digital.hbs.edu/platform-digit/submission/john-deere-planting-the-seeds-of-technology-and-harvesting-profits/
  10. https://investor.deere.com/home/default.aspx, Investor Presentation Fiscal 2021
  11. https://www.nsagriculture.com/news/john-deere-autotrac-tractor-guidance/
  12. https://www.futurefarming.com/Machinery/Articles/2020/3/John-Deere-We-believe-in-electric-tractors-100-552869E/
  13. https://www.realagriculture.com/2019/11/john-deere-teams-up-with-joskin-to-develop-award-winning-eautopower-gearbox/?__cf_chl_jschl_tk__=pmd_899af35455c5c522f786a184b8e15d1d59915965-1627210604-0-gqNtZGzNAnijcnBszQji
  14. https://www.agroworlddergisi.com/innovation-award-agritechnica-2019-in-gold-eautopower-gearbox-e8wd-for-8r-large-tractors/
  15. https://www.nsagriculture.com/analysis/john-deere-future-farming/
  16. https://bernardmarr.com/the-amazing-ways-john-deere-uses-ai-and-machine-vision-to-help-feed-10-billion-people/
  17. https://digital.hbs.edu/platform-digit/submission/john-deere-planting-the-seeds-of-technology-and-harvesting-profits/
  18. https://www.deere.com/assets/pdfs/common/our-company/sustainability/sustainability-report-2020.pdf
  19. https://www.sbbit.jp/article/cont1/34349#head2
  20. https://www.intelligentautomation.network/transformation/articles/john-deere-planting-the-digital-seeds-of-change

画像

  1. https://www.youtube.com/watch?v=AHVr3wderFg
  2. https://www.proagri.co.za/en/sit-back-watch-the-screen-for-higher-profit-with-jdlink/
  3. https://www.agritechnica.com/de/presse/fotos/innovation-award-2019
  4. https://www.estesperformanceconcaves.com/types-of-john-deere-combine-parts-online/
  5. https://www.proagri.co.za/en/sit-back-watch-the-screen-for-higher-profit-with-jdlink/
  6. https://investor.deere.com/home/default.aspx, 2Q 2021 Earnings Call
  7. https://investor.deere.com/stock/default.aspx